【クラウンジュエル】王冠の上の宝石は皆の注目の的⁉

2020年4月17日2020年8月5日

定義

Crown Jewels（クラウンジュエル）とは企業に取って価値の高い財産（資産・事業）のことを指します。

それが無いとその企業の姿が大きく変わってしまうほど重要な保有財産がクラウンジュエルと定義されます。

企業がクラウンジュエルを売却（Sale of Crown Jewelsと呼ばれる）する代表的なケースは以下の2つが考えられます。

まず一つ目は、企業の経営がうまくいかず、債務不履行などによる倒産を避けるためにクラウンジュエルを売却して資金を捻出する場合です。

前述の通りクラウンジュエルは企業にとって高い価値のある資産や事業であるため、得てして市場でも高額での売却が可能です。

しかしクラウンジュエルを売却し資金を捻出した企業は、一時的に倒産を免れたものの、主要部門を失い将来的にまた経営難に陥る事例も少なくありません。

二つ目のケースは、対象企業が買い手企業から買収から身を守るためにクラウンジュエルを売却するケースです。

対象企業が売却に反対の際に、買い手が興味の持つ自社の主要資産・事業（クラウンジュエル）を市場で売却してしまうことで、買い手にとって買収の魅力を失わせ、買収を踏みとどまらせる手法です。

こうした状況下でのクラウンジュエルの売却は、財閥など大企業によってよく行われます。

例えばある企業A社（買い手企業）がある企業T社（対象企業）の買収に興味を持ったとします。

T社は元財閥系列で小売り・自転車生産・レストラン経営・不動産・人材派遣・幼児教育など多種多様な事業を手掛ける大企業です。

中でも、A社はT社の売り上げの6割を占める小売りビジネスに魅力を感じていて、買収後に更に小売りビジネスを発展させたいと考えています。

しかし市場からすると、T社は事業分野が広い分、一体何の企業で、どの分野に強みがあり、企業としてどこを目指しているのかが掴みづらくなってしまいます。

そのため、T社の市場価値は、それぞれの単体事業価値を合計したものよりも低くなってしまう現象（Conglomerate Discount）が発生します。

特にそれぞれの事業の関連性が低くシナジーが薄い場合に、企業全体としての価値が大きくディスカウント（割引）されてしまいます。

上の例では、各部門の市場価値の合計が10億円なのに対し、T社の市場価値は8億円とされ、20％のディスカウントが起こっています。

そこでA社は、T社全体を8億円で購入した後に、小売り部門以外の部門をそれぞれ市場価格で売却することにより、合計7億円（＋小売部門）が手に入ります。

結果的にA社は買収価格8億円と、買収後の各部門の売却による7億円の、差額1億円で3億円の価値がある小売り部門を買ったことになります。

このように買い手がディスカウントを目論んで大企業の買収に乗り出すケースがあります。

そこでT社はA社による買収を阻止するため、A社にとって買収の目玉である小売り部門（クラウンジュエル）の売却を図ります。

手続きは会社法に基づき、自社にとって重要な事業を売却する際には株主総会での特別決議が必要とされ、重要な財産の売却には取締役会の決議が不可欠となります。

また役員が自社の保有する財産を公正ではない価格で第三者に売却し、自社の価値に損害を与えた場合、特別背任罪に問われる危険性も伴います。

以上の点に注意しながらクラウンジュエルの売却が完了すれば、A社はT社への興味を失い、買収を諦めるだろうという寸法です。

王冠（対象企業）が狙われたら、王冠についている宝石（重要な財産）を外してしまい価値・魅力を低下させてしまうことになぞらえています。

またA社は買収の代替案として、T社の小売り部門だけでもどうしても欲しい場合、市場に売りに出された小売り部門単体を買うことも可能です。

しかしここで重要なのは、単体で売りに出された小売り部門は市場価格の3億円で取引されるということです。

そのため前述のような1億円の支出で3億円の小売り部門を手に入れるということは叶いません。

このようにクラウンジュエルの売却は買収への防御策としても機能しますが、対象企業は主要資産・事業を失うため、慎重な決断が迫られます。

対象企業や買い手企業にとって重要な経営陣や社員が、買収後に辞任するPeople Poison Pillという防御策もあります。

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