【株主資本コスト】エクイティ・ファイナンスのコスト試算
定義
Cost of Equity(株主資本コスト)はEquity Financing(エクイティ・ファイナンス)に掛かるコストのことですが、視点によって意味合いは異なります。
株式を発行する企業からすれば、株主資本コストは調達した資金を使用するプロジェクトや投資に最低限必要とするリターンを意味します。
投資家からすれば、株主資本コストはその企業の株式を買うのに最低限求めるリターンを表します。
代表的な株主資本コストの計算方法は以下で紹介するDCMとCAPMです。
Dividend Capitalization Model(DCM)
公式: Cost of Equity = DPS ÷ CMV × Growth Rate of Dividends
DPS :Dividends per share
CMV :Current Market Value
つまり 株主資本コスト = 一株当たり配当 ÷ 現在株式価値 × 配当成長率
これは企業が株主に対して支払う配当金を企業にとってのコストだと捉えた考え方です。
計算式自体は非常にシンプルですが、デメリットとしては配当を行っていない企業にはあまり使用できない点です。
厳密には配当が0の企業でも、仮に配当を行う前提に基づいてDCMを使用することも可能ですが、当然家庭条件が増える分結果の正確性は低くなり実用性は薄れます。
一方で配当が0の企業にも適用できる計算方法が以下のCAPMです。
Capital Asset Pricing Model (CAPM)
CAPM(キャップエム・資本資産評価モデル)は株主資本コストは株価のボラティリティと市場に対するリスクの度合いに基づくという考え方に沿っています。
この一文だけでは普通ピンと来ないので、まずは計算式を見てそれぞれの要素を分解して見て行きましょう。
公式:Cost of Equity = Risk-Free Rate of Return + Beta × (Market Rate of Return – Risk-Free Rate of Return)
Risk-Free Rate of Return(Rf)
Risk-Free Rate of Return(Rf)とはリスクの無い、安全資産リターンを差します。
例として、倒産するリスクが限りなく低いと考えられる米国政府が発行する国債挙げられます・
当然米国政府が倒産する可能性は0ではありませんが、仮に倒産すれば各国政府や金融業界も同時にクラッシュするため、金融業界では限りなく倒産リスクが0に近いと想定されます。
Rfは無リスク資産とも呼ばれ、通常RfにはTreasury(米国債)や日本国債の利子率が使用されます。
Beta(β)
Beta(ベータ・β)はその企業(以下A社とします)の株価と市場ポートフォリオの相関関係を表します。
市場ポートフォリオとは、この世の全ての投資可能なリスク資産を差します。
CAMPでは、市場全体が避けられないようなSystematic Risk(システマティック・リスク)と、A社株に特有のUnsystematic Risk(非システマティック・リスク)があると考えられます。
金融恐慌はシステマティック・リスクの一例です。
仮に金融恐慌が起こったときに、A社の株価は他の株価(市場ポートフォリオ)と比較して、どのようにどの程度変動するのかを表したのがベータです。
ベータの値は-1から+1まであります。
- β=-1:A社の株価は市場ポートフォリオと反比例して動く
- β=0:A社の株価は市場ポートフォリオと全く関係性が無い
- β=+1:A社の株価は市場ポートフォリオと全く同じ様に動く
例えば市場が好景気で市場ポートフォリオの株価が上昇に転じた時、A社のβ=0.8であればA社株も市場ポートフォリオほどではないが上昇に転じます。
反対にβ=-1であれば、市場ポートフォリオほどの動き幅ではないが、A社株は減少に転じます。
(Market Rate of Return – Risk-Free Rate of Return)
市場ポートフォリオの期待リターンを表しているのがMarket Rate of Returnです。
Market Rate of Return(全てのリスク資産リターン)からRf(無リスク資産リターン)を引くことで、リスクを取ったことに対するリターン(Market Risk Premium やExcess Market Return・期待超過リターンと呼ばれる)が得られます。
期待リターンは過去80年間およそ10%ほどで計算されることが多いです。
公式まとめ
上記の要素を踏まえた上で、今一度CAPMの公式を見てみましょう。
公式:Cost of Equity = Risk-Free Rate of Return + Beta × (Market Rate of Return – Risk-Free Rate of Return)
公式の意味を訳すと以下のようになります。
公式:株主資本コスト = 無リスク資産リターン + 市場ポートフォリオとの相関性 × 期待超過リターン
おさらいですが、企業側から考えると、株主資本コストは株式を発行して調達した資金を投入するプロジェクトや投資の最低限のリターンです。
つまり
- まず最低限、プロジェクトや投資のリターンは、米国債のような無リスク資産に投資して期待されるリターンは超えなくてはならない(仮に超えないなら新株を発行せずに米国債を買って利益を得た方が得)
- またプロジェクトや投資で期待されるリターンは最低限、A社の株価が上げると期待されるリターン(β×超過リターン)よりも高くなくてはならない(仮に低いなら資金調達はせずに株式のリターンを待った方が得)
また投資家の視点に立つと、株主資本コストはA社の株式を買う上で最低限求めるリターンでした。
そのため投資家にとっては、A社株式(リスク資産)のリターンは少なくとも無リスク資産(Rf)を購入した時のリターンよりも高くないといけないため(もし低いなら米国債買ったほうが得)、A社株式の期待リターン(β×超過リターン)にRfを足した値が株主資本コストとなります。
以上のようにCAPMは株価のボラティリティと市場に対するリスクの度合いに基づいて計算されます。
CAPMの欠点
しかしCAPMの欠点として、全ての投資家が市場ポートフォリオに対して同様の期待リターンを持つという前提には少し無理があります。
現実世界では投資家が得る情報量には差があり、また仮に同じ情報を得たとしても、捉え方は異なります。
また現実にはすべての投資家が市場のすべての銘柄にアクセスできるとは限りません。
よって全ての投資家が同じ思考に基づき、市場ポートフォリオに全く同じリターンを予測するというCAPMの前提は完全ではありません。
しかしシステマティック・リスクと株価のリターンを基に株主資本コストを説明したCAPMは革新的な理論であり、考案者はノーベル経済学賞を受賞しました。
まとめ
- 株主資本コストは企業がエクイティ・ファイナンスを行う際に掛かる調達コスト
- DCMは配当を行っている企業の株主資本コストを計算する上で役立つ
- CAPMは配当が0の企業にも使用でき実業務でも広く利用されるが、前提条件が100%現実に即しているとは言えない
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