【株式交換Merger】出費0円でも企業は買収できる
定義
Stock-for-Stock Mergerは買収対価が買い手企業の株式によって支払われる企業買収を指します。
ただし買収価格のすべてが株式によって支払われることは稀で、通常は株式と現金の両方が使用されます。
また買い手の株式や現金の他にも、社債や新株予約権が利用されるので、Stock-for-Stock の名称は必ずしも100%正確ではありません。
ここでは買い手企業が新たに株式を発行し、対象企業の株主に保有株式数に応じて分配するStock-for-Stock Mergerの例を見ていきましょう。
例えば買い手企業A社と対象企業のT社の買収が成立したとします。
両社の株価は以下の通りです。
T社株価 | 17.30円 | |
× | Takeover Premium | 25% |
= | T社株式売却額 | 21.63円 |
÷ | A社株価 | 11.75円 |
= | Exchange Ratio(株式交換比率) | 1.84 |
上の例ではA社はT社の現在株価の25%増し(Premium)で買い取ることを了承しました。
従ってT社株式は一株21.63円で取引されます。
ここで買い手と売り手の株式が交換される割合をExchange Ratio(株式交換比率)と言います。
一株21.63円で取引されるT社株を、A社の株価11.75円で割った、1.84が株式交換比率となります。
つまりT社株主は保有株式1株につき、A社の株主を1.84株取得することが出来ます。
メリット
- 買い手企業にとって株式交換による買収は、予め買収のための現金を準備したり、市場で新たに現金を調達したり、借入れを行ったりする必要性が低く、より少ない資金での買収が可能となる
- 市場での資金調達の手間が省けることで、買収を成立させるスピードが速くなる
- 対象企業の株主にとっても、買収成立後に買い手企業の株主になれる利点がある
デメリット
- Stock-for-Stock Mergerでは買い手は対象企業を丸ごと買収する必要があるため、不要な事業や資産も引き受けてしまうリスクがある
- 株式交換による買収は会社法上の手続きが複雑化すr
- 対象企業の株主のメリットの一つである買い手企業の経営への参画は、買い手にとって必ずしも喜ばしいものではない
- 買収後に買い手が新たに株式を発行する場合、その分全体の株式数は増えることによってStock Dilution(株式の希薄化)が起こる可能性がある
4つ目の株式の希薄化について少し掘り下げて見て行きましょう。
Stock Dilutionの考察
上記の例では買収成立後にT社の株式1株につき、A社株1.84株の交換を認めたため、その分A社は新規に株式を発行し発行済株式総数は増加します。
よって既存株主の保有割合(=保有株式数÷発行済株式総数)は低下します。
単純に考えれば、一株当たり株価(=企業価値÷発行済株式総数)は分母が増えることで低下します。
しかしA社はただ株式数を増やしただけでなく、T社を買収したことで、その資産や負債を吸収して企業規模も拡大しています。
買収によるシナジーが期待通りに実現されれば、分子のA社の企業価値は増加すると予想されます。
よって分子と分母の増減比率によって一株当たりの株式価値は上昇も減少もします。
このようにA社の既存株主は必ずしも買収後すぐの希薄化に不満を抱くのではなく、この買収が中長期的に会社にとってはプラスだと考えることも出来ます。
買い手と売り手の心理戦
仮に対象企業T社の株主は、”A社はT社の買収によってシナジーを実現し、成長を続ける将来性の高い企業だ”と判断したとします。
この場合T社の株主は”株式交換によって今後成長(株価上昇)が期待されるA社の株式を手に入れたい”と考えるでしょう。
反対にA社の経営に不安がある場合、”A社の株式の代わりに現金を受け取ってExitするのが良い”と考えるかもしれません。
この視点は買い手にとっても重要です。
買い手であるA社の経営陣が、”T社買収によるシナジーで企業価値・株価が上昇することに自信がある”とします。
するとA社としては、”ここでT社の株主にA社株は与えずに、現金で払ってしまうことで、A社の既存株主が買収によるシナジー実現によって享受する利益を増やそう”と考えます。
反対にA社経営層がT社の買収によるシナジー実現にあまり自身が無い場合、”今T社株主に現金を支出することは適切ではなく、株式交換でA社株を与えといた方が安全だ”と考えるかも知れません。
こういった観点からA社とT社の株主の間で心理戦が発生します。
例えばA社が現金主体の買収を提案した場合、T社の株主は、“A社は買収によるシナジー実現に自信があるから株式を渡したくないのだろう”と捉え、より株式交換中心の買収を要求する可能性があります。
反対にA社が株式交換中心の買収を持ち掛けた場合、T社株主は“A社は買収後の成長に確信が無いから現金払いしたくないのだろう”と考え、将来性がないA社の株式はいらないから現金で株式を買い取って貰うことを要求するでしょう。
このように買収では様々な視点から互いの意図を探ることが必要であり、一企業・一株主としての能力が問われます。
まとめ
- Stock-for-Stock Mergerでは買収対価が買い手企業の株式や社債、新株予約権(+現金)などで支払われる
- 対象企業と買い手企業の株式の交換比率をExchange Ratioと言う
- 株式交換には買い手と売り手に様々なメリット・デメリットが存在する
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません